こんにちは。ライターのKayです。

今日は極寒の地カナダから私たちの命を守ってくれる(大げさでなく本当に死ぬほど寒いんです……。)ダウンジャケットのお話をお届けします。カナダといえば、カナダグース!

日本でもここ数年安定した人気のあるダウンジャケットのブランドの一つですよね。本国カナダのトロントで1957年に創業されて約60年。

国自体の歴史が浅いカナダでは老舗ブランドです。2016年にはトロントとニューヨーク、2017年にはシカゴと東京にも初の旗艦店をオープンし売り上げもマーケットも世界で急拡大しています。

ブランドの歴史と新たなるスタート

アパレル生地の裁断師として働いていたポーランド系ユダヤ移民のサム・ティック氏によって始められたカナダグースの前身となる「Merto Sportswear」はレインコートやスノーモービル用のアウターなどを小さな倉庫で生産する会社でした。

その後、義理の息子のデーヴィット・リース氏によって革新的なダウン補充機が開発され、会社のアイコンでもある極寒地に対応した様々なダウンジャケットが誕生します。特に有名なのは南極探査でも着用されている『Expedition Parka』で、[marker]なんと南極の-49℃の地点で着用された[/marker]そうです。

デーヴィット氏の代に特にビジネスで力を入れていたのが警察やパークレンジャーの制服です。そのためカナダでは数年前まで“ファッションブランドというよりはレンジャーの制服”のイメージが強かったようです。

ブランドにとって大きな変化が訪れたのは、2001年に現在のCEOで創業者の孫に当たるダニー・リース氏が就任してからでした。ダニー氏はそれまでカナダ国内では「SNOW GOOSE」のブランドで販売していた商品を全てヨーロッパ市場向け(ヨーロッパでは既にSNOW GOOSEという名前が商標登録されていたため。)のブランド名であった「CANADA GOOSE」の名前で販売すること、商品は全て”MADE IN CANADA”であることを会社の方針として決めリブランディングを進めます。

MADE IN CANADAへのこだわり

社長就任前にヨーロッパでの卸販売のセールスを経験していたダニー氏は”CANADA”というワードが自分達の会社や商品のブランディングに非常に重要であることを実感しており、事業の全てをカナダを連想させる方向へと発展させブランドイメージを固めていきます。ただ、1990年代にカナダのアパレルビジネスは価格競争と利益確保のためにアジアに生産地を移しており、カナダ国内のアパレル生産工場は壊滅的な状態でした。

そんな中、生産工場を確保するためにダニー氏は私財を含む多額の投資を行います。通常、生産工場はいくつかのブランドでシェアしながら工場を運営しているので、一つのブランド、しかもダウンジャケットのように季節性の強い商品を扱うブランドが単独で工場を支えるというのは大胆な決断でした。

ハリウッドでの成功

リブランド後のカナダグースを一躍有名にしたのがハリウッドの映画の撮影現場での着用でした。元々はカナダの極寒地に対応した機能性が撮影クルーの間で評判でしたが、その後、出演者達もベンチコートとして使用するようになり写真雑誌などに登場するようになりました。

日本でもカナダグースが有名になるきっかけは、ハリウッドセレブのスナップ写真でしたね。数多くの映画の中で衣装としても使用されており、最近では『007 SPECTRE(スペクター)』でオーストリアの雪山での撮影にジェームス・ボンド役のダニエル・クレイグが着用していたことや、昨年アカデミー主演男優賞を受賞したケイシー・アフレックが出演している『マンチェスター・バイ・ザ・シー』の中にも鮮やかなブルーのコートが登場し話題になりました。

卸売りから直営販売へ

これまでの販路は卸売りが中心だったのですが、カナダを中心にオンリーショップができ、ついに待望のブランドイメージを全面に打ち出した旗艦店ができました。卸売りが中心だった頃は一部のセレクトショップや百貨店を除いては、割とカジュアルな売り場での展開が中心でしたが、オンリーショップや旗艦店は白と黒の内装で統一され、山や自然のイメージ写真が飾られた店内は明らかに「世界的な高級ダウンブランドに成長したモンクレールに続け」という意気込みが感じられます。

店頭の印象だけでなく、2017年3月のIPO後の時価総額は2.3億C$(約207億円)*1、2017年の売り上げは前年比35%増で1億7230万C$(約156億円)*2 と単独で上場しているアパレルブランドの規模としてはエルメスを超える勢いです。

そのうち直営店舗とeコマース部門は300%以上の伸びで、ダニー氏も「直営販売には今後も力を入れていき、特に現在4店舗の旗艦店を2018年には新たに3店舗、長期的には15〜20店舗に増やしたい」と語っております。*3

ネットでの直接販売への投資も増やす予定で、名実共にモンクレールに続くインタナショナルなラグジュアリーダウンブランドとしての足下を固めつつあります。さらに現在の売り上げの3分の2が北米マーケットですので、今後はヨーロッパとアジア中心にマーケットを広げていける可能性があり、まだまだ事業拡大の勢いは止まりそうにありません。

ラグジュアリーダウンブランドとしての今後

「次世代のアパレル販売チャネルとして重要なeコマースだけでなく、旗艦店や直営店舗にも大きく投資していきたい」と話すダニー氏は、顧客の店舗での体験の重要性を強調しています。今後、高価格帯の新ラインの発表の予定もあり益々、ラグジュアリーブランドとしてのイメージの浸透に力を入れていく中で、旗艦店は特にブランドのメッセージを伝えるための貴重な場所になると位置づけられています。

カナダの厳しくも美しい自然と、その中で熟練の職人によって作られるカナダグースの製品のイメージ。ブランドイメージのPRを担う著名人も探検家や犬ぞりレーサーなどエクストリームなアウトドアを連想させる人達が中心です。

[aside type=”warning”]製品の欠陥によっては命を落とす危険があります[/aside]

という注意喚起もこのブランドならではですね。

もう1つ、カナダグースの商品にとって重要なのが“Life time warranty”といういわゆる“商品の生涯保証”のポリシーです。もちろん、アクシデントによる破損はカバーされませんが、自然にできた糸の切れやほころび、付属品の外れなどは無料で修理してもらえます。

クラフツマンシップのプライドともいえるこの制度も、単なるアウトドアウェアに“職人技で生み出される高品質な製品”という付加価値を与えています。ラグジュアリーダウンの先駆けとして成長を続けているモンクレールが、世界の有名ファッションデザイナーとのコラボレーションや奇抜なディスプレーで注目を集め、ラグジュアリーの方向性を”エレガンス”と”前衛”に置いているのに対し、カナダグースはあくまでも本来のアウトドアの機能をファッションとして”洗練”させていく方向へと向かっているように感じられます。

もちろんOPENING CEREMONYやVETEMENTSなどコレクションブランドやラッパーのDrakeとのコラボレーションも話題になりましたが、ブランドのアイコンであるコヨーテファーや機能的なポケットの数々、防寒性などはそのまま引き継がれ、カナダグースのブランドイメージが非常に尊重されたコラボレーションになっていました。これから春のコレクションも展開され、薄手のダウン商品のラインナップの充実が期待されます。

アジアマーケットなどでは、以前から平均-20℃に対応した商品は「暑すぎる」との声もあり、気候によって選択肢が増えることは私たちにとっても楽しみな展開です。


参考文献

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